旅の写文 跡のテーマ 第4集
  遺跡・廃墟・歴史・残骸など、跡の写真にコトバを乗せて……
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 勝手についてきた自称ガイドと名乗る青年は、ご機嫌でも取るかのようにこう言った。
彼らは伝統住居を取り壊し、新しい鉄筋の家を建てているところなんです。
  良くないことです。歴史遺産が失われる。まったく良くないことです。
               なんだか、釈然としなかった。
ハッラン古代都市遺跡内の集落 【クルディスタン】
 
朝日に照らされ、やがて朝の煙が立ち昇る。
いってきますの声が響き、そして今日も一日が始まる。
二十人あまりが暮らす狭い家に住む彼が、旅人のわたしに見せたかったのは、
世界で二番目に長い長城の夜明けではなくて、そこに込められている、
小さいけれど一番大切な幸せが過去にも未来にも永遠に続く証だったのかもしれない。
世界第二位のディアルバクル長城の城下町 【クルディスタン】
 
物置と化したチケットオフィスの脇に、世界遺産の立て看板が打ち捨てられていた。
こんなに完璧に修復保存され、こんなにセルジューク様式を極めているモスクはない。
だけど、町の人にとっては今も昔も生活の一部にすぎないのだ。
お土産も売っていないし、客引きもいない。人々は普通に生活しているだけ。
この潔さに、このモスクの真の価値が隠されている気がした。
 
 
ディブリィ町の病院兼モスク 【クルディスタン】
 
両サイドは市場ブースの跡。繋がれた馬のいななきが聞こえる。
目抜き通りを進むと交差点、正面にはモスク。
雑踏と喧騒が聞こえる。
まぶたの裏に映し出される都市。
ここはわたしの好きな遺跡だった。
 
カルス町郊外のアルメニア王国首都遺跡アニ 【クルディスタン】
 
千と一つの教会の都と称された街にはモスクの跡もいくつかあった。きっと、信仰に篤い温和な国だったのだろう。
たくさんの遺跡を見てきたけれど、こういう感じは初めてだった。
城壁に刻まれる十文字に、時代に置き去りにされた祖国を失いし首都の哀しみが漂っていた。
カルス郊外アルメニア王国首都遺跡アニ 【クルディスタン】
 
徹底的な偶像禁止。
  宗教的な理由はどうあれ、腹立たしくなる。
外野から言わせれば、身勝手な破壊と排他にしか見えない。
ギリシャ正教のスメラ岩窟修道院 【トルコ】
 
人類史上最初の集落で崇拝されていたのは、
  母だった。
 
 
 
 
 
首都アンカラのアナトリア博物館地母神像 【トルコ】
 
 
 
 
 
 
 
創造力と表現力の織りなす技。
 緻密な空間認識により概念の物体化に成功した紀元前、
    日本では槍もってシカとか追っかけていたそうな。
首都アンカラのアナトリア博物館ネオヒッタイト展示場 【トルコ】
 
 
大切なものは、都市の博物館で厳重に保管されている。
      遺産に宿るパワーがない、抜け殻のような死んだ遺跡。
                              わかるけど、せつないものだ。
ヒッタイト帝都ハットゥシャシュ遺跡 【トルコ】
 
偶像禁止の宗教の本拠地にあって、
   芸術としての像がこれほどまでに手厚く保護されているところも珍しい。
 
 
 
宗教と文明の町コンヤの博物館 【トルコ】
 
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